大学院に進学する分野はどこなのか?

今回は学校基本調査の数値からどの分野が大学に進学するのかということについて見てみたいと思います。2018年度の数値が最も最新ですので、分野別に大学入学者、大学院修士課程入学者、大学院博士課程入学者それぞれの比率がどうなっているかを見てみます。

もちろんすべて2018年度のものですので、大学、修士課程、博士課程の人は確実に別人です。ですが、その比率を比べることにより、どの分野が大学院指向であるのかがわかると思います。

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分野別の動向

まずは大分野ごとの大学院進学動向を見てみます。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
合計628,821 74,091 14,903 11.8%2.4%20.1%
人文科学88,211 4,164 952 4.7%1.1%22.9%
社会科学203,351 6,702 1,013 3.3%0.5%15.1%
理学18,038 6,923 1,082 38.4%6.0%15.6%
工学88,989 31,852 2,562 35.8%2.9%8.0%
農学17,857 4,156 680 23.3%3.8%16.4%
保健71,461 5,568 6,271 7.8%8.8%112.6%
商船0 15 0 なしなし0.0%
家政18,025 409 46 2.3%0.3%11.2%
教育46,791 3,700 502 7.9%1.1%13.6%
芸術18,527 2,073 163 11.2%0.9%7.9%
その他57,571 8,529 1,632 14.8%2.8%19.1%

大きく3つに分かれることがわかります。

まずは理学・工学・農学のいわゆる理系とか自然科学分野とか言われる分野です。この3つの分野は総じて修士の比率が高くなっています。ただし、博士との比率を見ると工学だけは異なる傾向を示します。

工学は博士までは進学しません。つまり修士で就職する人が多いということになります。いっぽうで理学・農学については修士から博士への比率は比較的高いため工学よりは研究者指向が強いということが言えます。

次のグループは保健・教育・芸術の各分野です。

保健分野については医学・歯学・薬学が6年制であるため、基本的に修士課程への進学という概念はありません。進学する場合は博士課程になります。そのため修士より博士のほうが人数が多いという逆転現象が起きています。

教育分野は教職の仕組みが影響しています。教員免許については修士課程相当で専修免許状が取得できます。専門職学位課程の教職大学院も他にありますが、修士課程も同じ機能を有するので、資格取得のための進学という側面があります。

芸術分野については、もう少し好きなことを続けたいという要求があるのかもしれません。

最後に人文科学・社会科学・家政の各分野で、これらの分野は修士課程の比率が低い、つまりあまり大学院自体に進学しない分野ということになります。ただし、これらの分野については修士と博士の比率は他の分野と変わらないため、修士に進学した場合には博士に同程度進学すると考えてよさそうです。

以下分野別に見てみましょう。

人文科学分野

最初は人文科学分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
人文科学全体88,211 4,164 952 4.7%1.1%22.9%
文学32,793 720 185 2.2%0.6%25.7%
史学6,363 298 76 4.7%1.2%25.5%
哲学11,551 1,058 141 9.2%1.2%13.3%
人文その他37,504 2,088 550 5.6%1.5%26.3%

人文科学分野では哲学の修士比率が高いです。これは心理学がここに分類されることが多いためです。一方で博士の比率はどの分野もほぼ同程度になっています。

つまり、「心理学だけ修士に進学する」ということが言えそうです。

社会科学分野

次に社会科学分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
社会科学全体203,351 6,702 1,013 3.3%0.5%15.1%
法学・政治学37,582 1,066 214 2.8%0.6%20.1%
商学・経済学111,744 3,757 409 3.4%0.4%10.9%
社会学32,860 542 151 1.6%0.5%27.9%
社会その他21,165 1,337 239 6.3%1.1%17.9%

社会科学では社会学がやや修士の比率が低くなっています。また商学・経済学は他と比較すると修士比率が高くなっていますが、修士と博士の比率が低くなっているため、博士比率はどの分野もほぼ同じです。

理学分野

次は理学分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
理学全体18,038 6,923 1,082 38.4%6.0%15.6%
数学3,484 943 164 27.1%4.7%17.4%
物理学2,488 1,339 281 53.8%11.3%21.0%
化学2,457 1,000 129 40.7%5.3%12.9%
生物学2,279 639 127 28.0%5.6%19.9%
地学614 496 87 80.8%14.2%17.5%
原子力理学なし0 0 なしなしなし
理学その他6,716 2,506 294 37.3%4.4%11.7%

理学は修士の比率が分野によってかなり異なります。特に地学の修士比率は80%を超えており、「地学は6年が基本」といえるでしょう。同様に物理も半分以上が修士という分野になっています。

さらに修士と博士の比率を見ても比較的高い水準を維持しています。つまり地学についてはこの分野の学部に入学した場合はかなり高い比率で博士まで進学すると考えてよさそうです。

工学分野

次に工学分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
工学全体88,989 31,852 2,562 35.8%2.9%8.0%
機械工学14,727 4,143 181 28.1%1.2%4.4%
電気通信工学24,101 6,762 434 28.1%1.8%6.4%
土木建築工学13,400 3,076 202 23.0%1.5%6.6%
応用化学7,346 2,703 226 36.8%3.1%8.4%
応用理学2,052 254 44 12.4%2.1%17.3%
原子力工学111 130 21 117.1%18.9%16.2%
鉱山学0 0 0 なしなしなし
金属工学0 25 6 なしなし24.0%
繊維工学69 187 0 271.0%0.0%0.0%
船舶工学320 0 0 0.0%0.0%なし
航空工学564 284 37 50.4%6.6%13.0%
経営工学1,492 332 20 22.3%1.3%6.0%
工芸学487 23 1 4.7%0.2%4.3%
工学その他24,320 13,933 1,390 57.3%5.7%10.0%

比較的人数の多い、機械・電気通信・土木建築・応用化学の各分野についてはほぼ同じような傾向を示しています。

特殊な分野としては、原子力工学で学部教育段階よりも修士課程のほうが多い分野になっています。

また、工学には経営工学の分野がありますが、社会科学と比較しても大学院への進学の比率が高いと言えそうです。

農学分野

続いて農学分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
農学全体17,857 4,156 680 23.3%3.8%16.4%
農学2,542 617 44 24.3%1.7%7.1%
農芸化学1,378 106 18 7.7%1.3%17.0%
農業工学565 113 24 20.0%4.2%21.2%
農業経済学558 59 21 10.6%3.8%35.6%
林学345 88 10 25.5%2.9%11.4%
林産学0 0 0 #DIV/0!#DIV/0!#DIV/0!
獣医学畜産学2,135 150 135 7.0%6.3%90.0%
水産学1,601 426 26 26.6%1.6%6.1%
農学その他8,733 2,597 402 29.7%4.6%15.5%

農学は分野によって収支の比率に差があります。農学・林学・水産学などは比較的修士の比率が高く、農芸化学や農業経済学などは低くなっています。

ただし、農業経済学は社会科学の分野と比較しても大学院進学比率が高くなっており、6年間学ぶ傾向が強い分野であると言えます。

保健分野

次は保健分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
保健全体71,461 5,568 6,271 7.8%8.8%112.6%
医学9,002 708 3,981 7.9%44.2%562.3%
歯学2,268 45 709 2.0%31.3%1575.6%
薬学12,393 1,115 550 9.0%4.4%49.3%
看護学23,071 なしなしなしなしなし
保健その他24,727 3,700 1,031 15.0%4.2%27.9%

保健分野は上述の通り、医学・歯学・薬学が6年制であるため、修士ではなく博士に進学することになります。したがって、医学や歯学においては博士の比率が非常に高くなっています。

家政分野

次は家政分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
家政全体18,025 409 46 2.3%0.3%11.2%
家政学4,726 0 0 0.0%0.0%なし
食物学10,097 206 19 2.0%0.2%9.2%
被服学1,488 32 1 2.2%0.1%3.1%
住居学309 29 0 9.4%0.0%0.0%
児童学1,268 10 0 0.8%0.0%0.0%
家政その他137 132 26 96.4%19.0%19.7%

家政分野については基本的に大学院に進学しません。家政学の修士課程以降がゼロ人になっていますが、家政その他がその分多くなっているので、そちらで計上されている可能性があります。

教育分野

続いて教育分野ですが、教育分野は学部と大学院で項目に大きな違いがあります。そこで学部の総学校課程から特別支援教育課程までを教員養成とみなして、その合計値と大学院の教員養成を比較してものも入れています(表の「教員養成計」の部分です)。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
教育全体46,791 3,700 502 7.9%1.1%13.6%
教育学9,998 1,282 336 12.8%3.4%26.2%
教員養成なし1,934 76 なしなし3.9%
小学校課程3,018 なしなしなしなしなし
中学校課程166 なしなしなしなしなし
中等教育学校課程968 なしなしなしなしなし
養護学校課程12 なしなしなしなしなし
幼稚園課程21 なしなしなしなしなし
特別支援教育課程288 なしなしなしなしなし
教員養成計4,473 1,934 76 43.2%1.7%3.9%
体育学9,666 459 87 4.7%0.9%19.0%
教育その他22,654 25 3 0.1%0.0%12.0%

他の分野と異なり、教育その他が大学院に少ないため、一概に比較できませんが、教員養成系は専修免許状の影響もあり、かなり高い比率になっています。

芸術分野

次は芸術分野です。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
芸術全体18,527 2,073 163 11.2%0.9%7.9%
美術3,403 462 61 13.6%1.8%13.2%
デザイン4,649 273 0 5.9%0.0%0.0%
音楽3,819 635 38 16.6%1.0%6.0%
芸術その他6,656 703 64 10.6%1.0%9.1%

芸術分野では美術と音楽が比較的高く、デザインが比較的低くなっています。やはりもう少し技術を追究したいという層を引き受けているのかもしれません。ただし、あまり博士には進学しないようです。

その他分野

最後にその他分野です。その他は学部段階と大学院段階で記載される項目が異なるため比較自体はあまり意味はありません。また、東京大学や北海道大学のように入学時点で教養課程(東大は教養学部になりますが)に所属するためその他に分類され、大学院に進学した段階で学部に振り分けられるという人も多くいます。

また、国際関係学と人間関係学は大学院でどこに分類されるのか不明です。

ですので、以下の表は参考までに。

分野大学修士博士修士/大学博士/大学博士/修士
その他全体57,571 8,529 1,632 14.8%2.8%19.1%
教養学2,573 なしなしなしなしなし
総合科学124 なしなしなしなしなし
自然科学なし2,395 414 なしなし17.3%
社会・自然科学なし482 113 なしなし23.4%
教養課程(文科)3,078 なしなしなしなしなし
教養課程(理科)3,688 なしなしなしなしなし
教養課程(その他)2,803 なしなしなしなしなし
人文・社会科学7,934 1,294 373 16.3%4.7%28.8%
国際関係学3,997 なしなしなしなしなし
人間関係科学4,162 なしなしなしなしなし
その他その他29,212 4,358 732 14.9%2.5%16.8%

大学・大学院の比率まとめ

大学と大学院を対比した時の特徴は以下の通りです。

1.大学院の比率は理系(理学・工学・農学)で高い
2.一方で人文科学・社会科学・家政の各分野では低くなっている
3.大学院への進学が多い分野でも博士への進学は傾向が異なる。

以上です。参考にしてください。

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