専門学校は1976年に制度化されてから40年以上が経過しています。そこで、平成元年(1989年)から平成30年(2018年)までにどう変化したのかを学校基本調査の数字から見ていきます。
大学と短大についてはこちらの記事を参照してください。
専門学校の分類については、小分類が2005年に追加されているので、1989年、2005年、2018年の三段階に分けてみてみようと思います。2005年は平成17年なので、平成の半分くらいという見方もできます。
Contents
全体の数字の変化
専門学校は工業、農業、医療、衛生、教育・社会福祉、商業実務、服飾・家政、文化・教養の8つの分野に分けられます。そこで、全体の数字と分野ごとの数字の推移を見ていきます。
分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
総計 | 309,488 | 326,593 | 267,562 | 17,105 | -59,031 |
工業分野 | 87,837 | 52,966 | 39,215 | -34,871 | -13,751 |
農業分野 | 744 | 1,336 | 2,557 | 592 | 1,221 |
医療分野 | 46,146 | 75,807 | 63,616 | 29,661 | -12,191 |
衛生分野 | 28,209 | 50,090 | 37,504 | 21,881 | -12,586 |
教育・社会福祉分野 | 11,550 | 32,326 | 15,080 | 20,776 | -17,246 |
商業実務分野 | 61,293 | 36,914 | 35,732 | -24,379 | -1,182 |
服飾・家政分野 | 28,065 | 12,157 | 8,043 | -15,908 | -4,114 |
文化・教養分野 | 45,644 | 64,997 | 65,815 | 19,353 | 818 |
専門学校全体では1989年から2005年にかけて増加し、2005年から2018年にかけて減少しています。もちろんずっと増加し続けたり、減少し続けたりするわけではなく年度により増減はあります。
分野別にみると、2つの期間ともに減少しているのが、工業、商業実務、服飾・家政の3分野、2つの期間ともに増加しているのが、農業、文化・教養の2分野、最初の期間は増加し、次の期間で減少しているのが、医療、衛生、教育・社会福祉の3分野です。最初の期間に減少して、次の期間に増加した分野はありません。
工業と服飾・家政の2分野は大きく減少していると言えます。次に分野ごとの小分野の推移を見ていきます。
工業分野
工業分野は分野全体としては大きく減少しています。では小分野ではどうなっているでしょうか?
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
工業分野 | 87,837 | 52,966 | 39,215 | -34,871 | -13,751 |
測量 | 1,417 | 648 | 366 | -769 | -282 |
土木・建築 | 12,950 | 7,988 | 7,018 | -4,962 | -970 |
電気・電子 | 7,194 | 1,785 | 1,075 | -5,409 | -710 |
無線・通信 | 2,549 | 498 | 223 | -2,051 | -275 |
自動車整備 | 8,524 | 12,862 | 7,972 | 4,338 | -4,890 |
機械 | 2,005 | 449 | 390 | -1,556 | -59 |
電子計算機 | 7,438 | 2,397 | 1,778 | -5,041 | -619 |
情報処理 | 38,403 | 19,040 | 12,920 | -19,363 | -6,120 |
工業その他 | 7,357 | 7,299 | 7,473 | -58 | 174 |
工業分野のなかでは情報処理と電子計算機(情報系)の2つが大きく減少していることがわかります。また、土木・建築も減少しています。ただし、これらは2005年から2018年の間に底があり、現在は増加傾向にあります。
工業分野の中で最も調子が良かったのは自動車整備で、最初の期間に4千人以上入学者を増やしました。しかし、ここ最近は大きく数を減らしています。車離れという言葉が出てきたあたりから減少しているようです。
電気・電子、無線・通信、機械などは1989年から2005年の間に大きく減少しています。大学で同様の分野があり、そちらに流れたためと推測されます。先に触れた情報処理や土木・建築なども同様の傾向がありますが、ここ最近は大学のキャパを超えて増加しているということでしょうか。
農業分野
次に農業分野ですが、農業分野は人数こそ少ないものの増加しています。これには事情があり、各都道府県にある農業大学校が専門学校の認可を受けて、専門学校化していることが要因となっています。
また、農業では2005年に園芸の分野が追加されました。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
農業分野 | 744 | 1,336 | 2,557 | 592 | 1,221 |
農業 | 187 | 384 | 1,741 | 197 | 1,357 |
園芸 | なし | 281 | 385 | なし | 104 |
農業その他 | 557 | 671 | 431 | 114 | -240 |
農業は分野数が少ないため、どこが増減しているということはありませんが、上述の通り農業大学校が変更していることから農業の分野が大きく増加しています。
医療分野
次は医療分野です。医療は増加した後に減少した分野です。また、医療では2005年に理学・作業の分野が追加されました。理学療法士は医療全体を見ても大きな規模の資格ですが、この時までその他に分類されており、実態はわかりませんでした。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
医療分野 | 46,146 | 75,807 | 63,616 | 29,661 | -12,191 |
看護 | 25,784 | 32,471 | 32,221 | 6,687 | -250 |
准看護 | 175 | 37 | 80 | -138 | 43 |
歯科衛生 | 5,957 | 6,990 | 6,320 | 1,033 | -670 |
歯科技工 | 3,033 | 2,209 | 962 | -824 | -1,247 |
臨床検査 | 2,186 | 1,854 | 1,246 | -332 | -608 |
診療放射線 | 813 | 1,014 | 847 | 201 | -167 |
はり・きゅう・あんま | 1,804 | 4,634 | 3,209 | 2,830 | -1,425 |
柔道整復 | 1,015 | 5,901 | 3,760 | 4,886 | -2,141 |
理学・作業療法 | なし | 8,623 | 9,665 | なし | 1,042 |
医療その他 | 5,379 | 12,074 | 5,306 | 6,695 | -6,768 |
2つの期間で減り続けている分野はほとんど(歯科技工と臨床検査のみ)ありません。人数の変動が大きい分野ははり・きゅう・あんまと柔道整復の2つです。これらは急拡大しましたが、その分減少のスピードも速くなっています。
衛生分野
続いて衛生分野です。衛生分野も医療と同じ動きをしています。理容師・美容師や調理師・栄養士など資格分野が主なので、医療と構造は似ています。また、2005年には製菓・製パン分野が追加されました。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
衛生分野 | 28,209 | 50,090 | 37,504 | 21,881 | -12,586 |
栄養 | 4,318 | 3,443 | 2,349 | -875 | -1,094 |
調理 | 12,078 | 13,379 | 8,453 | 1,301 | -4,926 |
理容 | 1,892 | 1,194 | 587 | -698 | -607 |
美容 | 8,577 | 24,812 | 17,020 | 16,235 | -7,792 |
製菓・製パン | なし | 3,517 | 6,354 | なし | 2,837 |
衛生その他 | 1,344 | 3,745 | 2,741 | 2,401 | -1,004 |
栄養だけが2つの期間を通じて減少しています。これは短大でも同様の傾向があり、大学の管理栄養士に流れている結果だと推測されます。
この中で最も動きの激しかった分野は美容でしょう。当時「カリスマ美容師」という言葉が流行ったように、美容師人気が爆発した時期があります。今も比較的大きい分野ですが、一時期と比べると減少しています。
一方で理容師はあまり人気がなく、減少し続けています。
教育・社会福祉分野
続いては教育・社会福祉分野です。こちらも資格取得がメインとなる分野ですが、福祉系は特に時代の流れに左右されやすい分野です。こちらは介護福祉、社会福祉の各分野が2005年に追加されました。それまで福祉の分野の人数はきちんと把握されていませんでした。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
教育・社会福祉分野 | 11,550 | 32,326 | 15,080 | 20,776 | -17,246 |
保育士養成 | 4,183 | 6,764 | 6,045 | 2,581 | -719 |
教員養成 | 2,888 | 2,724 | 2,174 | -164 | -550 |
介護福祉 | なし | 11,065 | 4,499 | なし | -6,566 |
社会福祉 | なし | 3,562 | 1,624 | なし | -1,938 |
教育福祉その他 | 4,479 | 8,211 | 738 | 3,732 | -7,473 |
数字が大きく動いているのが福祉分野、特に介護福祉の分野だとわかります。介護福祉は景気(就職率)と逆に動きます。ですので、就職状況が良い現在は大きく数を減らしています。2005年から2018年の間にはリーマンショックがありましたが、その直後は介護福祉分野の入学者が大きく増えました。
商業実務分野
続いて商業実務分野ですが、こちらは大学でいうと経済学・商学分野に近い分野です。また、2005年に旅行、情報、ビジネスの各分野が追加されました。それまでは情報は工業に分類されていましたが、商業系の情報という分野ができたことになります。
学科名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
商業実務分野 | 61,293 | 36,914 | 35,732 | -24,379 | -1,182 |
商業 | 1,257 | 787 | 3,752 | -470 | 2,965 |
経理・簿記 | 20,355 | 5,871 | 5,200 | -14,484 | -671 |
タイピスト | 542 | 5 | 0 | -537 | -5 |
秘書 | 8,838 | 2,713 | 292 | -6,125 | -2,421 |
経営 | 4,293 | 1,317 | 1,675 | -2,976 | 358 |
旅行 | なし | 5,944 | 7,903 | なし | 1,959 |
情報 | なし | 2,993 | 4,576 | なし | 1,583 |
ビジネス | なし | 5,978 | 8,021 | なし | 2,043 |
商業実務その他 | 26,008 | 11,306 | 4,313 | -14,702 | -6,993 |
最初の期間では経理・簿記、秘書、経営などが減少しています。これは大学で扱う分野だと言えるため、大学に進学できるようになったことから減少したと推測されます。
2つ目の期間は大きな変動はありませんが、商業や新しく設置された旅行、情報、ビジネスが増加しています。観光に力を入れる国家戦略の影響があることと、留学生がこの分野にこぞって進学していることが大きな要因となっています。
服飾・家政分野
続いて服飾・家政分野ですが、この分野は当初は専門学校の主力となっていた分野でしたが、産業構造の変化などで大きく減少しています。この分野では2005年にファッションビジネスという分野が追加されています。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
服飾・家政分野 | 28,065 | 12,157 | 8,043 | -15,908 | -4,114 |
家政 | 443 | 93 | 292 | -350 | 199 |
家庭 | 19 | 2 | 4 | -17 | 2 |
和洋裁 | 23,773 | 9,724 | 5,795 | -14,049 | -3,929 |
料理 | 1,313 | 88 | 130 | -1,225 | 42 |
編物・手芸 | 1,267 | 249 | 64 | -1,018 | -185 |
ファッションビジネス | なし | 960 | 1,676 | なし | 716 |
家政その他 | 1,250 | 1,041 | 82 | -209 | -959 |
服飾・家政の分野多く設置されていますが、基本的にどの分野も大きく減少しており、現状では和洋裁とファッションビジネスのみが残っている状態です。その2つも特に規模が大きいわけではありません。
これは大学や短大においても同様の傾向を示しており(大学は一応増えていますが、大学+短大の数字は減少しています)、特に家政系については進学先の分野として成立しにくくなっています。
文化・教養分野
最後に文化・教養分野ですが、こちらは大学のその他と同じくいろいろな分野が混ざっているため、複雑です。文化・教養分野では2005年に動物、法律行政、スポーツの分野が追加されました。正直新しく追加された分野だけを見ても統一感に欠けることがお分かりいただけると思います。
小分野名 | 1989年 | 2005年 | 2018年 | 2005年 1989年比 | 2018年 2005年比 |
文化・教養分野 | 45,644 | 64,997 | 65,815 | 19,353 | 818 |
音楽 | 3,425 | 8,160 | 6,915 | 4,735 | -1,245 |
美術 | 1,985 | 1,573 | 1,616 | -412 | 43 |
デザイン | 14,123 | 14,488 | 8,999 | 365 | -5,489 |
茶華道 | 70 | 45 | 38 | -25 | -7 |
外国語 | 9,690 | 3,852 | 6,596 | -5,838 | 2,744 |
演劇・映画 | 2,495 | 3,785 | 3,174 | 1,290 | -611 |
写真 | 1,178 | 895 | 517 | -283 | -378 |
通訳・ガイド | 3,006 | 1,289 | 2,062 | -1,717 | 773 |
動物 | なし | 4,978 | 6,376 | なし | 1,398 |
法律行政 | なし | 7,484 | 11,004 | なし | 3,520 |
スポーツ | なし | 5,141 | 4,614 | なし | -527 |
文化・教養その他 | 9,672 | 13,307 | 13,904 | 3,635 | 597 |
統一性に欠ける分野なのでどこが増えてどこが減ったということを書くこと自体がヘンな感じですが、目立つものとしては、外国語と通訳・ガイドの人数がV字回復していることが挙げられます。分野全体で減少してから増加したものは存在していません。小分野に限ってもきちんと傾向が出ている(小規模なものならある)のはこの2つだけです。
これは「グローバル」人気の結果だと推測されます。具体的には外国語学部などの代替進学先としての位置づけになっています。また、大学進学が厳しい人がこちらに流れていることも考えられます。
一方でデザイン分野などは大きく数を減らしており、芸術系は少し厳しい状況にあると言えます。
専門学校の変化まとめ
専門学校の平成の間の変化をまとめると以下の通りです。
1.専門学校の入学者数は1989年から2005年の期間は増加傾向にあるが、2005年から2018年の期間は減少傾向にある
2.産業構造の変化などが分野ごとの増減に大きく影響している
3.1989年から2005年の間の変化には大学への進学状況が影響したと推測できるものがある
以上参考にしてください。