平成の間に大学院はどう変わったのか(修士課程編)

今回は学校基本調査の数値から平成の間(1989年度~2018年度)に大学院の入学者がどう変化したのかを見ていきます。大学院は修士課程、博士課程と2003年に新たにできた専門職学位課程の3つがありますが、今回は修士課程について見ていきます。

Contents

大分野の動向

修士課程の大分野別の入学状況は以下の通りです。

分野1989年2018年増減比率
合計28,177 74,091 45,914 263%
人文科学2,337 4,164 1,827 178%
社会科学2,553 6,702 4,149 263%
理学3,125 6,923 3,798 222%
工学13,459 31,852 18,393 237%
農学1,929 4,156 2,227 215%
保健1,333 5,568 4,235 418%
商船44 15 -29 34%
家政191 409 218 214%
教育2,283 3,700 1,417 162%
芸術671 2,073 1,402 309%
その他252 8,529 8,277 3385%

商船以外のすべての分野で増加しています。人数としては工学分野が最も増加していますが、増加率という観点で見るとその他の分野や保健分野が増加しています。主に大学の学部が増えているところと関連しています。それは当然と言えば当然ですが。

以下各分野の詳細について見ていきたいと思います。

人文科学分野

まずは人文科学分野です。

分野1989年2018年増減比率
人文科学全体2,337 4,164 1,827 178%
文学1,056 720 -336 68%
史学377 298 -79 79%
哲学612 1,058 446 173%
人文その他292 2,088 1,796 715%

人文科学については文学と史学が減少し、哲学と人文その他が増加しています。これは心理学の分野が哲学と人文その他に分類されているからだと推測されます。つまり、純粋に文学から創造される分野については進学者が減少しているということになります。

社会科学分野

次に社会科学分野です。

分野1989年2018年増減比率
社会科学全体2,553 6,702 4,149 263%
法学・政治学691 1,066 375 154%
商学・経済学1,327 3,757 2,430 283%
社会学394 542 148 138%
社会その他141 1,337 1,196 948%

こちらは人文科学と異なり、どの分野も増加しています。これらは専門職学位課程もありますので、そちらも参考にしてください。

理学分野

続いて理学分野です。

分野1989年2018年増減比率
理学全体3,125 6,923 3,798 222%
数学427 943 516 221%
物理学977 1,339 362 137%
化学883 1,000 117 113%
生物学488 639 151 131%
地学218 496 278 228%
原子力理学22 0 -22 0%
理学その他110 2,506 2,396 2278%

総じて増加しています。1989年当時は原子力に関する分野が計上されていましたが、現在はありません(ゼロと記載しています)。

大きく増えているのは理学その他ですが、これは理学部が理学科となっているのと同様に細かい分類分けをしなくなったためと推測されます。

工学分野

次に工学分野です。

分野1989年2018年増減比率
工学全体13,459 31,852 18,393 237%
機械工学2,357 4,143 1,786 176%
電気通信工学3,473 6,762 3,289 195%
土木建築工学1,880 3,076 1,196 164%
応用化学2,195 2,703 508 123%
応用理学374 254 -120 68%
原子力工学182 130 -52 71%
鉱山学131 0 -131 0%
金属工学371 25 -346 7%
繊維工学123 187 64 152%
船舶工学54 0 -54 0%
航空工学102 284 182 278%
経営工学176 332 156 189%
工芸学14 23 9 164%
工学その他2,027 13,933 11,906 687%

工学は全体的に増加していますが、分野は二極化しています。機械工学、電気通信工学、土木建築工学、応用化学は増加している一方で原子力工学、鉱山学、金属工学、船舶工学などは減少しています。そもそも学部教育でこれらの分野がなくなっています。

また工学その他は大きく増えていますが、理学と同様にまとまっている分野があることと、いくつかの分野にまたがる専攻ができたことが要因だと推測されます。

農学分野

次に農学分野です。

分野1989年2018年増減比率
農学全体1,929 4,156 2,227 215%
農学461 617 156 134%
農芸化学610 106 -504 17%
農業工学131 113 -18 86%
農業経済学55 59 4 107%
林学94 88 -6 94%
林産学74 0 -74 0%
獣医学畜産学191 150 -41 79%
水産学234 426 192 182%
農学その他79 2,597 2,518 3287%

農学は農学その他が圧倒的に増加しています。

これは農学分野の主力が「生命・生物」系の研究に移っていることを示しています。純粋に農学を研究する専攻は減少していると考えてよいでしょう。

保健分野

次に保健分野です。

分野1989年2018年増減比率
保健全体1,333 5,568 4,235 418%
医学53 708 655 1336%
歯学0 45 45 0%
薬学1,177 1,115 -62 95%
保健その他103 3,700 3,597 3592%

修士課程なので、本来であれば医学と歯学は存在しませんでした。しかし、医科学研究が入ったことによりこの分野が増えています(歯学は便宜的に比率は0%としています)。

それ以外には保健その他が増加しています。平成になってから(というよりもここ10年くらいの傾向ですが)、医師、歯科医師、薬剤師、看護師以外の資格(理学療法士、作業療法士など)が大きく増加しました。その部分の大学院が設置されたことによりその他の部分が増加しています。

家政分野

続いて家政分野です。

分野1989年2018年増減比率
家政全体191 409 218 214%
家政学7 0 -7 0%
食物学74 206 132 278%
被服学49 32 -17 65%
住居学13 29 16 223%
児童学28 10 -18 36%
家政その他20 132 112 660%

家政分野はもともと大学院に進学する分野ではありませんでしたが、2018年の現在においても、増加率は別として人数としては少なくなっています。その中でも食物学が多数を占めています。これは管理栄養士の進路として増加していることが考えられます。

教育分野

次に教育分野です。ここも教員養成及び教育その他の比率は便宜的に0%にしています。

分野1989年2018年増減比率
教育全体2,283 3,700 1,417 162%
教育学2,102 1,282 -820 61%
教員養成0 1,934 1,934 0%
体育学181 459 278 254%
教育その他0 25 25 0%

教育分野は教育学が減少し、その分が教員養成の分野に転換しています。

さらに教育分野については専門職学位課程に一定数入学しており、それも合わせるとかなり増加していると考えられます(これは別途専門職学位課程の変遷を見てみることにします)。

芸術分野

次に芸術分野です。

分野1989年2018年増減比率
芸術全体671 2,073 1,402 309%
美術213 462 249 217%
デザイン104 273 169 263%
音楽259 635 376 245%
芸術その他95 703 608 740%

芸術分野は人数は少ないながらもすべての分野で増加しています。元来大学院に進学する分野でなかった(芸術は実技で評価されることが多く、研究とはやや親和性が低い)ですが、近年では大学院へ進学する傾向が少し出てきたと言えるでしょう。

その他分野

最後にその他分野です。その他のその他の比率は便宜的に0%にしています。

分野1989年2018年増減比率
その他全体252 8,529 8,277 3385%
自然科学93 2,395 2,302 2575%
社会・自然科学131 482 351 368%
人文・社会科学28 1,294 1,266 4621%
その他その他0 4,358 4,358 0%

ここは評価が難しいです。もともと学部教育もそうですが、その他に分類されるものは教養学系統以外ありませんでした。新しい学部が登場してくるにつれて、「仕方なく」その他に分類されてきた経緯があります。そのため大学院もそれに付随して分類されています。

結果的に30年で約34倍になっています。

修士課程の変遷まとめ

修士課程の変遷は以下の通りです。

1.基本的に修士課程の入学者は増加している
2.ただし、文学系統や工学系統・農学系統の一部は減少している
3.学部教育同様にその他に分類される分野が増えている

以上です。参考にしてください。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です