私立大学の入学定員厳格化を検証する

私立大学の入学定員厳格化をご存知でしょうか?

これは2016年度(平成28年度)から主に収容定員が8,000人以上の大学(入学定員が概ね2,000人以上)の大学を中心に定員超過率を段階的に引き下げるというものです。そしてこれを超えると補助金が交付されなくなります。

これによって規模の大きな大学は超過率が1.2倍から1.1倍まで下げられました。つまり例えば入学定員が3,000人の大学だとこれまで3,600人入学しても大丈夫だったものが、3,300人までしか入学できないということになりました。

地方創生が主な目的

この制度の目的は、大都市圏の規模の大きな大学の入学者を抑制することにより地方大学の入学者を増やす地方創生ということになっています。

ということはこの制度が始まったことにより地方大学の入学者が増加していればその目的が達成されたということになります。

ということで、学校基本調査の数値をもとに検証してみました。

確かに地方私立大学は増加している

地域2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道12,175 11,632 12,139 -543 95.5%507 104.4%
東北14,145 13,417 14,579 -728 94.9%1,162 108.7%
北関東10,063 10,375 11,620 312 103.1%1,245 112.0%
首都圏231,478 231,492 235,969 14 100.0%4,477 101.9%
甲信越10,682 10,739 12,238 57 100.5%1,499 114.0%
東海44,740 44,826 47,176 86 100.2%2,350 105.2%
近畿103,403 103,615 109,945 212 100.2%6,330 106.1%
中国16,096 16,326 17,724 230 101.4%1,398 108.6%
四国3,685 3,674 4,106 -11 99.7%432 111.8%
九州29,550 28,657 30,916 -893 97.0%2,259 107.9%
沖縄県2,453 1,951 2,013 -502 79.5%62 103.2%
総計478,470 476,704 498,425 -1,766 99.6%21,721 104.6%

上の表は地域ごとの私立大学の入学者数の5年比較です。

地域別の内訳を記載しておくと、
東北:青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島
北関東:茨城、栃木、群馬
首都圏:埼玉、千葉、東京、神奈川
甲信越:新潟、富山、石川、福井、山梨、長野
東海:岐阜、静岡、愛知、三重
近畿:滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山
中国:鳥取、島根、岡山、広島、山口
四国:徳島、香川、愛媛、高知
九州:福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島

となります。

これを見ると、一目瞭然で2009年から2014年までに減少していた地方の私立大学の入学者が増加しています。

これでめでたしめでたし、検証終了と言いたいところですが、誰が地方大学に進学しているのかを確認する必要があります。

ということで大都市圏の地域別の私立大学の進学者数について調べてみました。

大都市圏からはあまり地方私大に進学していない

以下は順に、首都圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)、愛知県、関西大都市圏(京都、大阪、兵庫)からの地域別の私立大学進学者数の推移です。

首都圏からの
進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道526 623 705 97 118.4%82 113.2%
東北282 301 372 19 106.7%71 123.6%
北関東1,742 1,871 1,939 129 107.4%68 103.6%
首都圏150,408 156,604 162,425 6,196 104.1%5,821 103.7%
甲信越748 850 930 102 113.6%80 109.4%
東海667 698 747 31 104.6%49 107.0%
近畿892 976 1,372 84 109.4%396 140.6%
中国66 101 68 35 153.0%-33 67.3%
四国12 57 133.3%45 475.0%
九州177 272 321 95 153.7%49 118.0%
沖縄県24 -17 29.2%128.6%
総計155,541 162,315 168,945 6,774 104.4%6,630 104.1%
愛知県からの
進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道37 60 49 23 162.2%-11 81.7%
東北15 22 32 146.7%10 145.5%
北関東29 22 24 -7 75.9%109.1%
首都圏2,536 2,516 2,576 -20 99.2%60 102.4%
甲信越134 152 156 18 113.4%102.6%
東海22,614 23,490 25,024 876 103.9%1,534 106.5%
近畿1,554 1,755 1,854 201 112.9%99 105.6%
中国45 43 55 -2 95.6%12 127.9%
四国18 -3 40.0%16 900.0%
九州49 71 98 22 144.9%27 138.0%
沖縄県-5 37.5%-1 66.7%
総計27,026 28,136 29,888 1,110 104.1%1,752 106.2%
関西大都市圏
からの進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道88 100 104 12 113.6%104.0%
東北42 36 54 -6 85.7%18 150.0%
北関東32 52 58 20 162.5%111.5%
首都圏3,038 3,189 3,179 151 105.0%-10 99.7%
甲信越244 261 274 17 107.0%13 105.0%
東海476 627 615 151 131.7%-12 98.1%
近畿63,927 66,413 70,493 2,486 103.9%4,080 106.1%
中国615 699 680 84 113.7%-19 97.3%
四国88 77 111 -11 87.5%34 144.2%
九州357 377 348 20 105.6%-29 92.3%
沖縄県12 -8 33.3%100.0%
総計68,919 71,835 75,920 2,916 104.2%4,085 105.7%

こうして眺めてみると、首都圏からは首都圏への、愛知県からは東海への、関西大都市圏からは近畿への進学者数が増加しています。

確かに地方私立大学の入学者は増加しているが、大都市圏からはそんなに進学してきているわけではないことがわかります。

大都市圏からは地方国立大学に流れていた

この状況を解くカギは国立大学への進学動向にありました。下の表は先ほどの3地域からの進学先の国立大学版です。

首都圏からの
進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道317 507 696 190 159.9%189 137.3%
東北558 748 986 190 134.1%238 131.8%
北関東1,190 1,409 1,491 219 118.4%82 105.8%
首都圏7,805 8,775 9,079 970 112.4%304 103.5%
甲信越444 555 869 111 125.0%314 156.6%
東海151 213 292 62 141.1%79 137.1%
近畿354 547 752 193 154.5%205 137.5%
中国81 135 218 54 166.7%83 161.5%
四国61 88 132 27 144.3%44 150.0%
九州154 215 304 61 139.6%89 141.4%
沖縄県65 69 67 106.2%-2 97.1%
総計11,180 13,261 14,886 2,081 118.6%1,625 112.3%
愛知県からの
進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道139 175 232 36 125.9%57 132.6%
東北120 126 141 105.0%15 111.9%
北関東91 119 142 28 130.8%23 119.3%
首都圏577 562 511 -15 97.4%-51 90.9%
甲信越700 809 767 109 115.6%-42 94.8%
東海3,984 4,066 3,967 82 102.1%-99 97.6%
近畿567 694 668 127 122.4%-26 96.3%
中国151 187 221 36 123.8%34 118.2%
四国75 86 80 11 114.7%-6 93.0%
九州72 122 139 50 169.4%17 113.9%
沖縄県32 26 39 -6 81.3%13 150.0%
総計6,508 6,972 6,907 464 107.1%-65 99.1%
関西大都市圏
からの進学先
2009年度2014年度2019年度14年‐09年14年/09年率19年‐14年19年/14年率
北海道260 356 325 96 136.9%-31 91.3%
東北94 102 135 108.5%33 132.4%
北関東112 110 157 -2 98.2%47 142.7%
首都圏625 672 687 47 107.5%15 102.2%
甲信越379 416 514 37 109.8%98 123.6%
東海303 324 385 21 106.9%61 118.8%
近畿6,638 6,655 6,616 17 100.3%-39 99.4%
中国1,183 1,406 1,563 223 118.9%157 111.2%
四国752 825 947 73 109.7%122 114.8%
九州244 398 455 154 163.1%57 114.3%
沖縄県34 52 54 18 152.9%103.8%
総計10,624 11,316 11,838 692 106.5%522 104.6%

これを見ると、この10年間で大都市圏からの国立大学進学者数が増えていることがわかります(ちなみにこの間国立大学の入学者数自体は約2,700人減少しています【2009年から2014年で約1,000人、2014年から2019年で約1,700人】)。特に首都圏からは北海道、東北、甲信越地方、関西大都市圏からは中国、四国、九州地方の国立大学への進学者数が伸びています。
※地方国立大学への進学については、入学定員厳格化の前から医学部ブームで地方国立大学の医学部に大都市圏から進学するという流れがありました。ただし、ここ数年は医学部ブームも下火であり、その流れの中で地方国立大学への進学が増加していることが大きな特徴です。

ただし、大都市間にも序列があり、首都圏から愛知県、関西大都市圏に人が流れ、それに押し出される形で関西大都市圏から西日本の各地域の国立大学へ進学しているという構図もあります。最近東京の高校から京大に進学する人が増えたという記事を見られた方もいらっしゃるかもしれませんが、これもその現象の一つの要因です。

つまり、確かに地方の私立大学は増加しているが、そのうちの一部はその地方の国立大学進学層を大都市圏の高校生が奪うことによって成立しているということになります。

まとめると

「入学定員厳格化の影響で、確かに地方私立大学の入学者は増加した。ただし、大都市圏からの地方国立大学進学者が増加したことにより、玉突き的に地方の高校生が地方私立大学に進学するという構図になった。」

ということになります。

結果として地方の大学に大都市圏からの進学者も含め多く進学するようになったという意味では地方創生は上手くいっていると言えるかもしれません。しかし、相対的に裕福な大都市圏の高校生が、相対的に学費負担の小さい国立大学に進学し、逆に地方の高校生が学費負担の大きい私立大学に進学するという現象が生じていることについては違和感があります。

大きな要因は私立の中高一貫校と地方の公立進学校の学力構造によるものだと推測される(たとえば地方の公立高校から現役で東大に入るというのは至難の業になっていますし、浪人できないため東大の受験者自体が減るという状況になっていることなどからそう考えました)ことから特に学力上位の高校生に対しての格差是正が必要になるのかもしれません。

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