大学入試で受験者を獲得する方法から水増し方法まで

18歳人口が減少している中で、大学受験者は減少するはずですが、受験者自体は増え続けています。

上のグラフは学校基本調査の数字をもとに延べの志願者数と大学進学希望者数の推移を示したものです。その2つの数字から1人当たり何回出願しているかを計算しました。

それを見ると希望者数は減少傾向ながらも横ばいである一方で志願者数はここ数年で急速に伸び、18歳人口が最も多かった1992年とほぼ同じ数字となっています。結果的に1人当たりの出願数は過去最高の数値となっています。

単純計算で最近の受験生は1990年代の受験生と比較して、受験生1人当たり2.5回多く出願している計算になっています。もちろんここには基本的に1回しか出願しない指定校推薦なども含まれているため、一般入試だけだと1人当たりの出願数はもっと増加していると考えられます。

なぜこういう数字になるのでしょうか?

もちろん各大学の試験の工夫による部分も大きいですが、水増しに近い方法が採用されることもあります。そこで大学入試でどのような施策がとられているのかをご紹介したいと思います。真っ当なものから並べています。

センター試験制度を実施する

これはむしろ導入していない大学のほうが珍しいと言えるでしょう。各大学で入試を受ける代わりに大学入試センター試験を受験し、その得点で合否判定するもので、受験生は各大学の試験を受ける必要もなく、当然各大学も試験問題を作成する必要がありません。

有名な大学で2020年度入試の段階で導入していないのは慶応義塾大学、上智大学、学習院大学くらいです。2020年度入試までは大学入試センター試験と呼ばれていますが、2021年度からは大学入学共通テストと名称を変更します。そうなっても大きな変更はありません。むしろ先ほどの上智大学と学習院大学は大学入学共通テストからこの方式を導入することを発表しています。

この方式を導入することで、遠隔地に住む受験生や併願での志望者(有体に言うと滑り止めの受験生)に受験してもらうことができます。非常にローコストで新しい受験層を獲得できる方式であるといえるでしょう。

受験回数を増やす(試験日程を増やす・試験日を増やす)

次に各受験生の受験機会を増やすことが挙げられます。主に試験日程を増やすか、各日程の試験日を増やすという方式がとられます。

試験日程を増やす

これは前期・後期やA日程・B日程・C日程などと分割されたもので、多くの国公立大学では前期・後期の日程が用意されています(最近は国立の後期日程がAO・推薦制度に変更されていますが)。私立大学では上位の大学ほど日程数は少なく、下位の大学ほど日程数が増える傾向があります。

これにより前期入試でダメだった受験生が再チャレンジする機会を得られることで、新たな受験層を獲得することができます。ただし、特に後期日程では前期に失敗した人がほとんどであり、第一志望の受験生は少なくなります。結果的に入学後の意欲の低下の対策が必要になります。もちろん試験日程増えるということは試験問題もその分必要になるため手間もかかります。

試験日を増やす

これは各日程を複数日に変更し「試験日自由選択制度」などという名称でいつ受験しても良いようにすることです。これは主に受験者数が多く第一志望が受験する前期日程で導入されることが多いです。

試験日程を増やすことと異なり、第一志望の獲得が大きな目的です。というのも下位の大学は上位の大学と重なると受験生が上位大学を受験してしまうため、日付をずらす必要があります。しかし、関東地方や近畿地方など大学が多いところはどこに日付を移しても他の大学の受験日に当たってしまうため、やむなく複数日の設定をすることになります。

結果的に上位の大学ほど試験日が少なく、下位の大学ほど試験日が多くなります。上位の大学ほど第一志望層が受験しに来るので、複数日を用意しなくてもその日に受験してもらえます。

この場合もちろん試験問題が増えるということもありますが、複数ある日程で当然問題の難易度は異なるため、順位付けをどうするかが問題になります。大学によって対応は異なりますが、試験日ごとに合否判定をしたり、偏差値化して判定したりすることが多いようです。

新しい制度を入れる(全学部入試・センタープラス入試・英語外部試験)

これは試験日を増やす代わりに、試験方式を増やすものです。主に全学部入試とセンタープラス入試があります。

全学部入試

これは学部別に入試を実施している上位大学に当てはまるものです。もともと同じ問題・日程で入試を実施している大学が全学部方式といっても何も意味はありません。

学部別に入試を実施する場合には、日付も入試問題も異なります。それを同じ日付・同じ入試問題で実施するものです。その際に複数の学部に同時に出願できるかは大学によって異なります。上位の大学は併願が不可か、併願学部に制限がかかることが多いようです。

これは受験機会を増やすことと入試問題作成の手間が省力化できるということにあります。これで課題になるのは試験問題と学部の求める知識に差がないかどうかということですが、科目に齟齬がなければ問題ないかと思います。

センタープラス入試

これは一部の科目をセンター試験の点数で代用するものです。たとえば、理系の英語・数学・理科の三教科入試だった場合に、英語の点数はセンター試験の点数で代用するものです。

これは大学の省力化の効果が大きくなります。センター試験で点数を見る分は試験問題と採点が不要になるからです。

この方式自体は問題ないですが、後で述べる追加方式で実施する場合は、水増し方法として利用されることもあるので要注意です。

英語外部試験

最近増加しているのが、英語の点数を外部の民間試験の点数で代用するものです。方式としてはセンタープラスとあまり変わりませんが、英語外部試験というからには科目は英語に限定されますし、その採点方法も問題となります。

英語の民間試験の活用が延期されましたが、これも採点方法の問題が関係しています(それ以外には試験実施の方法や民間試験間の差異など複数の要因があります)。

多いのは出願資格(ある点数以上を出願条件にする)、みなし得点(点数によって段階を分けるところもあります)などです。

以上の方式ではいくつかの条件が加わるので、いくつかの学部を考えている人や、英語・センター試験での得点がある受験生が出願してくれることが期待できますが、どちらかというとコストが少なくて済むということのほうが大きいと思います。

学部学科間併願制度をつくる

これは読んで字のごとくですが、ある試験を受けたときに別の学部学科を併願できるようにすることです。

この場合は、「どの範囲まで併願できるようにするのか」ということと、併願したときに選考料の割引制度をどのレベルで導入するのか」ということが問題になります。

大学は受験生が欲しいです。と同時に各学部も受験生が欲しいです。しかし、学部学科で求める力は当然ながら異なるはずで、無制限に併願できるようにするのは非常に無責任であるといえ、水増しの範囲に入るといえるでしょう。

さらにそこで選考料をどの程度まで割引きにするのかが問題になります。いくつ併願しても1学科分で良いというところも多くありますが、先ほどの無制限併願と組み合わせると、非常に多くの受験生を「稼げて」しまいます。

さらに上の試験日自由選択性と掛け合わせると横(日付)にも縦(学部学科)にも1人の受験生を拡大できてしまいます。

新しい方式を追加する(高得点方式・センタープラス方式・センター〇科目方式)

高得点方式

受けた試験の中で得点の高いものだけで判断する、もしくは特定の科目の点数を2倍として計算するなどの方式のことです。

センタープラス方式

上にも書いた通り、特定の科目をセンター試験の点数で代用する方式のことです。

センター〇科目方式

センター試験の出願で2科目方式、3科目方式などいくつかの方式を組み合わせる方式です。

独立した方式でない場合は注意が必要

これらの試験方式は独立して設定されている場合には新しい制度であるといえます。しかし、これが「一般入試(センター試験方式)に出願した人が選択できる方式」に変化した場合は注意が必要です。

これまで横(日付)と縦(学部学科併願)を見てきましたが、この方式は高さ(複数方式)とも言えます。1人の受験生の拡大方式としては「3次元」のものになっていると言えます。

ここまで来ると受験の役割をきちんと果たしているか疑問です。通常は試験別で異なる(もちろん重複は多くいますが)受験生を異なる試験方式で選抜することになります。しかし、一般入試に出願した人が選択できるということになると、同じ受験生集団を異なる試験方式で選抜することになります。

同じ受験生集団ですから、いくらいくつかの方式を採用したところで上位の合格者はすべての方式に合格することになります。当落線上の受験生での中で、ある特性のある(得意科目に偏りがある、センター試験がうまくいった等)受験生が救済されるくらいです。

異なる能力の受験生を選抜したいという意見もあると思いますが、それであれば独立の方式として別の受験生集団を集めるべきです。

そのためこれは水増しとしか言えません。不安な受験生は合格率を上げるために複数の方式があれば出願します。このような心理を逆手に取っているとしか思えません。ましてやここに学部学科併願と選考料割引を組み合わせるのは見た目の受験生数を増やすための手段としか思えません。

これらの方式は実は諸刃の剣です。増えるときには1人の受験生を3人分にも4人分にも増やすことができますが、逆に1人でも減ると3人分も4人分も減ってしまいます。そうするとまた新たな方式を増やしていくことになります。

このような制度を採用しているところは今後の18歳人口の減少と連動して、さらに複雑な試験制度を採用し受験生を困らせることになります。

試験とカリキュラムの関係

最後に試験とカリキュラムについて考えてみたいと思います。

人数を比較するのをやめよう

ここまで見たように今の入試は「どっちが受験者数が多いか」という基準でみられることが多いです。しかし、入試の目的は入学後の教育に耐えうる人を選抜すること、上位の大学についてはより学力の高い人を選抜することです。

この基準に照らすと今の入試の在り方は少しずれてきていると言えます。これは大学の考え方もそうですが、各ランキングでそういう基準が採用されており、多い順に並べられることも要因として挙げられます。

まずは受験者が多い大学=良い大学という認識を改めましょう。

カリキュラムから試験科目を明確に

高校までのカリキュラムと大学のカリキュラムは明確には連動しません。しかし、大学のカリキュラムに耐えうるために必須の科目は必ずあります。理系であれば数学・理科(分野による)が必須ですし、文系でも経済学などは数学が必須です。

分野によりこの科目は異なりますが、ちゃんとこれらの科目が課されているかどうか確認してください。また、科目の範囲も重要になります。

理系では顕著ですが、たとえば早慶の理工学系の受験科目は英語・数学(ⅢB)・理科二科目となっていますが、他の理系大学は一般的には英語・数学(ⅢB)・理科一科目です。さらに下のランクになると数学の範囲がⅡB→ⅡA→ⅠBと少なくなっていきます。

数学Ⅲが試験範囲外であるということは入学後に微分法や積分法を学んでいないで良いというメッセージを発していることになります。こういった誤ったメッセージを発するのはよくありません。むしろ数学を使わないという可能性もありますが、それでは大学の理工系学部とは言えないでしょう。

リメディアルでは追いつけない

入学後にリメディアル教育で対応するという意見があるかもしれませんが、基本的に入学前にリメディアル教育を行うことは不可能です(課題を出したりすることしかできません)。ということはリメディアルは入学後に実施することになりますが、その時点で通常の授業も開始されています。

最初は教養系の授業が多いとはいえ、通常の授業を受けながら高校時代の科目をマスターすることは容易ではありません。それに高校の科目は高校の方が教えるのが上手です(餅は餅屋です)。

実人数を増やす努力を

最近は週刊誌等でも実人数の公表を求めているようですが、これは大学全体の話です。各大学の個々の学部単位や試験単位でも求める能力などが異なるはずですので、これらの範囲でも実人数を増やすような努力をしてほしいです。

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