大学・短大・専門学校の財務情報の見方

大学・短大・専門学校の教育活動を支える財務情報ですが、現在はほぼすべての大学が財務情報を公開しています。しかし、それをじっくり読んだことのある人はあまりいないのではないでしょうか?

しかし、それぞれの決算書には各学校の方針が数字に反映されています。

そこで今回は財務情報を見るポイントをお教えします。

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国公立と私立で様式が異なる

まず前提として国公立大学と私立大学では決算書の名称が異なります。

貸借対照表は同じですが、国公立大学は企業と同様に損益計算書キャッシュフロー計算書があります。

私立大学ではそれに代わって、事業活動収支計算書活動区分資金収支計算書という名称になっています。事業活動収支計算書が損益計算書、活動区分資金収支計算書がキャッシュフロー計算書とほぼ同じです。

今回は私立中心で見ていきます。

最初に確認するのは事業活動収支計算書

事業活動収支計算書は損益計算書と途中までは同じです。最後の利益処分の部分だけが異なります(学校法人は財団法人なので株主配当などがありません)。

収支幅が大きければ良いわけではない

上にも書きましたが、 学校の財務の場合 は「利益」といわず「収支差額」という表現をしますが、企業会計と同様に教育活動収支差額、教育活動外収支差額、特別収支差額の3段階に分かれています。

本業の教育活動収支差額がプラスであれば良いというわけではありません。むしろ収支が大きいと教育・研究に還元できていない可能性が高いです。

そこで教育活動収支差額の部分を見て大きくプラスになっていないかを確認してください。マイナスの場合はいったん保留して下の項目に進んでください。

各学校の意識を読み取る

次に見るのが経常収支差額です。

本業である教育活動収支差額がマイナスになっていても、経常収支差額がプラスであれば何の問題もありません。むしろそこに在籍する学生にとってはコスパのいい大学となっている可能性が高いです。

というのも教育活動収入のほとんどは学納金です。収めた学納金以上の教育費をかけてくれる大学はかなりお得な大学といえるのではないでしょうか?もちろん定員割れをしていて学納金が減少し、自転車操業のようになっている大学もありますので、定員充足しているかどうかもきちんと確認してください。

こういう学校経営を行っている大学の決算書を以下にご紹介します。

国際基督教大学
(2017年度事業活動収支計算書:2018年度は経常収支差額も含めてマイナスです。国際基督教大学は数年スパンで収支を合わせる経営方針のようです)

豊田工業大学
(2018年度事業報告書:最後のほうのページに5年間の事業活動収支計算書があります。この大学も過去5年で経常収支差額がプラスになっているのは3年間で残りの2年はマイナスです)

この2大学とも教育活動収支差額が大きくマイナスになっていて、それを経常収支差額の段階で補われていることがわかると思います。もちろんその資金を提供するスポンサーがいることが必要となりますが。

資金的余裕を見たければ活動区分資金収支計算書

活動区分資金収支計算書はキャッシュフロー計算書のようにお金の出入りが記載されています。

これは一番下の繰越支払資金の推移を見ることでほぼお金の流れを知ることができます。複数年度を見て、資金に余裕があるか確認するくらいで十分かと思います。

貸借対照表は基本金の種別を確認

学校法人は利益を株主に配当するのとは異なり、種別に応じて基本金を積み上げる必要があります。基本金は4種類に分かれ、以下の用途になっています。

第1号基本金:取得した固定資産と同額
第2号基本金:将来取得予定の固定資産のための資金
第3号基本金:奨学金や研究のための基金
第4号基本金:当座(1か月分)の運転資金

確認すべきは第2号と第3号基本金の推移

この4つの中で第1号と第4号はどの学校も積み上げなければなければならないものなので(土地建物がない学校は存在しないですし、運転資金は必須となっている)、ここを見てもあまり意味はありません。

一方で第2号は将来の資産の取得のためなので具体的なキャンパス整備などを計画している証拠となりますし、第3号は奨学金や研究のためのものなので最終的に在籍しているもしくは将来の学生に還元されます。

もちろん基本金に積み上げてなくてもキャンパス整備や奨学金を出すことはできますが、学校としてそれを計画しているということは現在確実にそういう補助が存在する、もしくは将来実現する可能性が高いということになります。

有力大学は第3号基本金を増やしている

以前は大学の投資は建物が中心でした。新校舎完成という広告をよくご覧になった方も多いと思います。

しかし、最近はいかに教育研究に還元するか、もしくは奨学金を通じていかに優秀な学生を確保するかに関心が移ってきています。そのため、有力大学の間で第3号基本金が増加しています。

先ほど紹介した豊田工業大学は第1号基本金よりも第3号基本金のほうが多くなっており、この部分が最終的に教育に還元されています。

また、どの種別にしても基本金が増加しているということは資産が増加していることなので、余剰が出ていることの証となります。

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