学校を卒業した後の進路の状況ですが、就職率はいろいろなところで問題にされます。しかし、進学も含めた進路やどういうところに就職しているかということについてはあまり触れられません。
そこで、学校基本調査の数字を元に長期の視点で進路状況がどのように変化しているのかを検証してみたいと思います。今回は大学卒業編です。
1970年度データから10年おきにどう変化しているかを見ていきます。念のために確認しておくと、1990年度は第二次ベビーブームのピークに近い年度、2000年度はバブル崩壊後に最も就職状況が厳しかった年度、2010年度はリーマンショック後に一時的に就職状況が悪化した年度。2020年度はコロナ直前でほぼ影響を受けていません。
また、就職は正規就職者(一時的な職などを含まない)を対象としていて、進学者はほとんどが大学院進学者ですが、一部学部再入学者(学士入学者)等を含んでいます。
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全体の動向
まずは全体の動向を国公私立別にみていきます。
まず大学卒業者数は右肩上がりに増加しています。一方で就職率や進学率はかなり変動しており、2000年度に大きく就職率が低下し、2010年度もリーマンショックの影響でやや低い数値となっています。進学率については長期的には上昇傾向にあります。
これを国公私立別にみてみると主に卒業者数と進学率で傾向が異なります。国立大学は2000年度以降の卒業者数は微減の傾向にあり、かつ進学率が30%を超えています。公立大学は人数自体は少ない(目盛りを参照してください)ですが、卒業者数が増加傾向にあります。私立大学は規模が大きいため、全体の傾向とかなり似ています。
国公私立別に違いの要因は?
このように進路の違いが表れていますが、その違いの要因はどこにあるでしょうか。最も大きな要因は設置されている学科系統の違いが挙げられます。国立大学は大学院進学率が高い理・工・農に代表される理系学科の比率が高くなっています。上記理系学科の比率は国立大学が約45%であるのに対して私立大学では約15%となっています。
それに加えて、同系統を比較しても国立大学の方が大学院進学意欲が高いです。理・工学系等では国立大学の進学率は60%を超えています。私立大学は20%程度なのでその差は大きくなっています。文系と言われる人文科学、社会科学などの分野でも国立大学は私立大学の倍程度となっており、国立大学卒業者は総じて進学を志向していることがわかります。
職業別就職者の推移
大学卒業者の場合は専門的・技術的職業に就いた人の比率がどのように推移しているかというのが一つの指標になります。そこで学科別にその推移を示したのが以下のグラフです。残念ながらこの数値は全体しかなく国公私立別の数値はありません。また、商船は人数が少なすぎるので除外しました。
線がいっぱいでわかりにくくなっていますが、大まかにいうと以下の形に分類できると思います。
1.比率が高いままの学科:工学、保健
2.当初は高かったが時代とともに低下した学科:理学、教育、芸術、(人文科学)
3.中程度の比率の学科:農学、家政
4.比率が低い学科:人文科学、社会科学
まあ、何となく想像通りかもしれませんが総じて専門的・技術的職業への就職率はどの学科も下がっています。その一つの要因が教員への就職数の減少です。教育学科はいうに及ばす、理学や人文科学(括弧書きにして二か所にあるのはそういう理由です)については教員が専門職の一翼を担っていましたが、年々就職できなくなっています。(ちなみに初等中等教育だけではなく高等教育への教員就職も含まれます。後日改めて教員については特集したいと思います)
産業別就職者の推移
最後に産業別就職状況の推移を見ていきたいと思います。
主だった産業だけ(過去5%を超えたもの)抜粋しました。サービス業は2010年度以降細分化されていますが、サービス業としてまとめています。
全体として製造業業が減少し、サービス業が増加していることが読み取れます。ただ、これも少し注記が必要です。まず減少している製造業ですがその分が情報通信業に転換しています。建設業、製造業、情報通信業を合わせると、2000年度以降は上昇しています。また、情報通信業は高校卒業後の進路には見られません。学科別にみても工学は65%がこれら三業種に就職しています。文系と言われる人文科学や社会科学でも25%程度です。
次にサービス業ですが、細分化した項目を合算したと書きましたが、それを細かくみると教育や医療・福祉も含まれており、これらだけで約20%となっています。看護に代表される医療系の学部・学科は年々増加しており、それが反映していると言えます。また、医療・福祉にほとんど就職する保健については当然製造業などへの就職者はほとんどいません。
まとめ
大学卒業後の進路をまとめると以下の通りです。
1.2000年度以降進学者が増えているが、それは国立大学のそれも理系学科が牽引している。
2.工学・保健を除くと専門的・技術的職業に就く人の比率は低下傾向にある。その要因は教員就職が減少したことにある。
3.産業別では製造業への就職者は減少しているが、その分情報通信業が増えている。
4.サービス業が増えているが教育や医療・福祉の占める割合が高い。