今回も学校基本調査のデータをもとに大学の学部がどう変遷したのか見ていきます。今回は1960年代後半(1965年度~1969年度)です。
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1965年度
学部数826学部(前年比+68学部)
新しく設置された学部:栄養学部(女子栄養大学)、産業社会学部(立命館大学)
なくなった学部:なし
前年と比較して68学部も増加しました。特に工学部(+6学部)、文学部(+10学部)、経済学部(+9学部)、商学部(+7学部)といった学部の増加が目立ちます。これは1964年度からの流れを受けています。
この年には女子栄養大学に栄養学部が設置されました。翌1966年には神戸学院大学、1967年には甲子園大学にも設置されました。現在は栄養学部という名称よりも健康栄養学部という名称の学部が多くなっています。
また、産業社会学部が立命館大学に設置されました。その後長野大学、つくば国際大学、羽衣国際大学にも設置されますが、現在まで残っているのは元祖の立命館大学のみです(学部数には計上されていますが、募集停止しているため入学者はいません)。
初めて使用された言葉は「栄養」「産業」です。
学部名 | 学部数 | 前年比 |
総計 | 826 | +68 |
工学部 | 94 | +6 |
文学部 | 94 | +10 |
経済学部 | 86 | +9 |
法学部 | 52 | +4 |
医学部 | 49 | ±0 |
商学部 | 43 | +7 |
農学部 | 37 | +1 |
学芸学部 | 33 | +1 |
理学部 | 33 | +5 |
薬学部 | 32 | +1 |
1966年度
学部数905学部(前年比+79学部)
新しく設置された学部:生産工学部(日本大学)
なくなった学部:なし
前年に引き続き79学部も増加しました。その結果文学部、工学部、経済学部の3つはそろって100学部を超えました。また、学芸学部がトップ10からなくなり(33学部→10学部)、教育学部が増加しています。これは国立大学の学芸学部が教育学部に名称変更した影響です。同時に〇〇学芸大学は東京学芸大学を除いて〇〇教育大学に名称変更しています(北海道学芸大学→北海道教育大学等)。
細かい話になりますが、学芸とは「リベラルアーツ」を意識した言葉です。今でいう教養に近いです(正直言うと教養とは何か?という問いは専門家でも単純な定義を与えられないほど複雑なので、学芸≒教養だとしても学芸=教養ではありません)。
それが教育学部=教員養成学部(厳密にいうと教育学部の中には教育学そのものを学び教員養成を目的としていないものもありますが)になったというのは大きな変化です。
教育学部になっても教養の学位が取れる「ゼロ免課程」という課程が置かれていましたが、近年の国立大学の改編の中で少しずつ姿を消しつつあります。逆に言うと昔は教養を教育学部が担っていて、その担い手がいなくなっているということになります。
また、この年には日本大学に生産工学部が設置されました。ただし、それまでは第一工学部、第二工学部という区分があり、現在の千葉にある工学部を生産工学部、福島にある工学部を工学部と称したことによるものです。
この時に「生産」という言葉が初めて使用されました。
また、社会科学部が早稲田大学に設置されたことで復活しました。
学部名 | 学部数 | 前年比 |
総計 | 905 | +79 |
文学部 | 112 | +18 |
工学部 | 100 | +6 |
経済学部 | 100 | +14 |
法学部 | 59 | +7 |
教育学部 | 54 | +23 |
医学部 | 49 | ±0 |
商学部 | 44 | +1 |
農学部 | 38 | +1 |
家政学部 | 35 | +7 |
理学部 | 34 | +1 |
1967年度
学部数955学部(前年比+50学部)
新しく設置された学部:なし
なくなった学部:法商学部(名城大学【第一部、第二部】)
増加のペースは鈍化しましたが、それでも年間で50学部が増加しています。文学部、工学部、経済学部に加えて、法学部(+6学部)、家政学部(+4学部)などの学部も徐々に増え始めました。
新しく設置された学部はなく、名城大学が法商学部を法学部と商学部に分離しました。これも法学部と商学部の増加の中にもちろん計上されています。
学部名 | 学部数 | 前年比 |
総計 | 955 | +50 |
文学部 | 120 | +8 |
工学部 | 109 | +9 |
経済学部 | 105 | +5 |
法学部 | 65 | +6 |
教育学部 | 57 | +3 |
医学部 | 49 | ±0 |
商学部 | 45 | +1 |
家政学部 | 39 | +4 |
農学部 | 38 | ±0 |
理学部 | 37 | +3 |
1968年度
学部数978学部(前年比+23学部)
新しく設置された学部:芸術工学部(九州芸術工科大学)
なくなった学部:なし
前年比で+23学部とこの数年と比較して伸びは鈍化しました。どの学部も少しずつ増加していますが、徐々に農学部の順位が低下しており、第一次産業から第二次産業への産業構造の変化が学部数にも影響していることが影響していると考えられます。
この年には芸術工学部が九州芸術工科大学に設置されました。この学部は国立大学統廃合の流れの中で九州大学芸術工学部となり、現在に至っています。
学部名 | 学部数 | 前年比 |
総計 | 978 | +23 |
文学部 | 120 | ±0 |
経済学部 | 112 | +7 |
工学部 | 111 | +2 |
法学部 | 68 | +3 |
教育学部 | 57 | ±0 |
商学部 | 49 | +4 |
医学部 | 46 | -3 |
家政学部 | 39 | ±0 |
理学部 | 39 | +2 |
農学部 | 37 | -1 |
1969年度
新しく設置された学部:なし
なくなった学部:なし
この年は学部数の変化も新規設置もなく、かなり落ち着いた年度でした。まあ学園紛争真っただ中で東大入試が中止になった年でもあるので、そんな余裕が大学になかったのかもしれませんが。
学部名 | 学部数 | 前年比 |
総計 | 981 | +3 |
文学部 | 122 | +2 |
経済学部 | 113 | +1 |
工学部 | 111 | ±0 |
法学部 | 67 | -1 |
教育学部 | 57 | ±0 |
商学部 | 49 | ±0 |
医学部 | 46 | ±0 |
家政学部 | 40 | +1 |
理学部 | 39 | ±0 |
農学部 | 36 | -1 |
1960年代後半の特徴
1960年代後半の特徴は以下の通りです。
1.前半は学部が多く増加する期間だった
2.学芸学部が教育学部に改変された
3.後半は学園紛争でそれどころではなかった