大学のカリキュラムを考える際に、大学の学部がどういう形で発展してきたかを知ることは非常に大切です。大学ができてから今までの発展状況を見ていきます。
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最初は4学部
中世ヨーロッパで大学が登場した時に、学部といえるものは4学部しかありませんでした。
それは神学部、法学部、医学部そして哲学部です。哲学部はいろいろな表現があり、日本の大学では学芸学部と称されていました。
現在でも博士号はPh.Dと証されますが、Phは哲学(フィロソフィー)の略称です。
神学部、法学部、医学部は職業人育成として、規模の差はありますが、現在も存続しています。つまり今の法学部が公務員養成所となっているのはこのころからの自然な成り行きです。
哲学部の分離
哲学部(学芸学部)ですが、日本的に言い直すと文理学部とも言い換えられます。その文理学部が分離し、文学部と理学部になります。文学部が現在の人文科学、理学部が現在の自然科学の元になっていると言えます。
さらに、人文科学と自然科学の間に社会を分析する社会科学(経済学、政治学、社会学等)ができます。ですので、社会科学については、人文科学と自然科学のどちらかに近い手法をとり、これが逆に論争の元になったりします。経営学科と経営工学科などはアプローチに違いがありますね。
このあたりの詳細は大澤真幸さんの『社会学史』という本に詳しいので参考にしてください。
日本で初めての大学、帝国大学で最初にできた学部は法学部、文学部、理学部、医学部の4学部ですので、日本の大学の創成期はは哲学部が分離した段階の学部構成だったと言えます。
人文科学、社会科学、自然科学としての分化
先ほど書いたように、学問分野は大きく人文科学、社会科学、自然科学の3つに分かれており、それぞれが発展していきます。
例えば文学部は哲学科、史学科、文学科などに、理学部は数学科、物理学科、化学科に加えて生物学科や地学科などに分化していきました。さらには人文科学系だと「〇〇文化」、社会科学系では「〇〇経済」や「△△経営」などという学部が多く出てきています。これはこれまでの分野を限定して、深く追究しようという意識が働いています。
この場合は元となった学問分野が明記されていますので、元の学問体系を一定程度理解する必要があります。
この他には職業人育成学部への変化が大きなものだと言えます。
経済学に対する経営学、理学に対する工学というところが有名なところだと思います。工学については理学よりも大きく発展しました。経営学についても経済学との差は縮まっていると思います。
また、医学部からは歯学部、薬学部などが分化していきます。
カリキュラムとしては、この元となっている学部が非常に重要で、経営学は経済学の要素を活用する、工学は理学の要素を活用することで学部として成立していることを忘れてはいけません。
3分野を越境する学部(越境学部1.0)
ここまで挙げた中で、メジャーな学部であるにもかかわらず、挙がっていない分野があります。
例えば農学部などです。
農学部は自然科学系の学部ではないかと思われるかもしれません。実際に生物学や科学の知見を応用する学部ではあります。しかし、農学部には農業経済学という分野があり、こちらは経済学を応用した分野になっています。
このように同一の学部を名乗っていても、複数の学問分野に依拠したものが出てきます。これらは越境学部と呼んでも良いかと思います。
ただし、この学部はまだ越境学部1.0です。時代が下ると越境学部2.0と言ってもよい学部が登場します。
その前に越境学部1.0の学部を個別の学部として独立させた大学を紹介します。
それは東京農業大学です。名前の通り、当初は農学部の大学でした。
時代が下るにつれて農学部を残しながら農業経済学の分野を国際食糧情報学部、化学を中心とした分野を応用生物科学部、生物学の中でも環境学を中心とした地域環境科学部、生物学の中でも新しめの工学の要素を混ぜた生命科学部という形で学問分野ごとに独立させています。
越境学部2.0
越境学部を定義するなら、「一つの対象を複数の学問分野から追究する学部」ということになります。
越境学部1.0との違いを挙げるとすると、学部として分割すると片手落ちになってしまうという点にあります。
最近増加している建築学部を例にとって考えてみます。
従来建築は自然科学、つまり工学部の中に入っていました。きちんと家を建てるために、数学や物理学が必要になるというのはすぐに理解できると思います。
それ以外に芸術系の学部でデザインや意匠を扱い、衣食住を扱う家政系学部の住の部分で特に内装を扱っていました(少し話はずれますが、家政系学部も越境学部1.0と言えます)。
しかし、建築の分野が家を建てるだけには留まらず、街並みなどに展開した時に、そこに培われている文化を考えたり、住む人について考えたりする必要が出てきました。つまり建築分野の幅が広がったのです。(学問領域が広がったというより現実へと適応してきたと言ったほうが良いのかもしれませんが)
このような例は多く出てきています。もともと人文科学の領域とされていたものとしては、心理学や教育学が挙げられます。もともと自然科学の領域とされていたものとしては、情報学などが挙げられます。
越境学部2.0のカリキュラムで気を付けること
越境学部2.0では一つのものを複数の視点で見ることになります。つまり、複数の学問体系を身につけなければなりません。
1つの分野を履修することでさえ大変なのに2つ以上の分野の履修が必要になります。特にこれらの学部は名称がキャッチ―なものが多く、専門科目は楽しそうなものが並んでいます。そうなると早く専門科目を学んでみたくなってしまいます。
大学によっては、基礎的な学問分野を妥協して履修体系を緩く設計していることがあります。この点は注意してみてください。概論や研究法や演習科目(特に基礎演習)がきちんと必修になっているか、必修となっていなくても履修の体系として組み込まれているかということは確認するようにしてください。
それを意識していないと迷子のまま4年間を過ごして卒業することになってしまいます。
個別の学部のカリキュラムがどうなっているかは別に分析してみたいと思います。